ニューヨーク市場の外国人投機家主導で140円台まで進行した円安。イングランド銀行ショックでドル安圧力がかかったが、中期的ドル高トレンドは変わらない。
ヘッジファンドなど円売り仕掛け人たちも、日銀介入のおかげで140円台前半の値固めができたと上機嫌だ。次の段階は、彼らが見る「新黒田ライン」146円台の攻防。そして12月には150円を視野に動いている。
その根拠は、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者が予測する2022年末の政策金利だ。
9月FOMCの際に発表されたドット・チャート(FOMC参加者による金利予測の分布チャート)によれば、4.125%が19人中8人。4.375%が9人。4.625%が1人いるが、その人がメスター・クリーブランド連銀総裁であることを、同氏自らが認めた。
「私はインフレがかなり執拗と見ており、(ドット・チャートの)予測中心値より上を見ている」と語ったのだ。「4%を上回ることは、インフレ退治に重要」とも述べている。「スーパー・タカ派」の面目躍如といったところか。
しかし、円安仕掛け人たちは、さらにスーパーなタカ派だ。5%以上を見込んでいる。
その理由は、FOMC参加者たちの年末金利予測が、毎回切り上がってきたからだ。21年12月のドット・チャートでは、22年末が1%以下であった。4%など、全くの想定外であった。それが、22年3月には1.625%から2.375%のレンジに上がった。1人3.125%がいるが、おそらくセントルイス連銀のブラード総裁と思われる。同氏は21年に、22年3月にも利上げがあるとの可能性を予測して、市場を驚かせた「スーパー・タカ派」だ。
その後、6月のドット・チャートでは3.125%から3.625%のレンジに上昇した。
そして9月には4%台。
このような推移を見るに、12月には、レンジの上値が5%台に達しても不思議はなかろう。メスター氏の言う通り、インフレは「しつこい」のだ。特に、家賃と人件費は下方硬直性が強い。
5%予測が四半期ごとのFRB経済予測に本当に入ってくれば、ドル高圧力がさらに強まるは必定だ。150円台も現実味が増す。
160円説すらある。政策金利予測に6%がちらつくようなケースだ。
米連邦準備理事会(FRB)高官経験者や、ローレンス・サマーズ元財務長官などの経済学者の間で議論されている。FRBが本当に8%を超す消費者物価指数(CPI)を2%台に、しかも安定的推移という状況に落ち着かせる気なら、23年には6%への利上げくらいの劇薬が必要との意見だ。
なお、円売り仕掛け人のなかには穏健派もいる。
23年には利上げ不況に陥り、FRBは利下げに転換を余儀なくされると考える一派だ。仮にそうなれば、一気に円急反騰は必至だ。
このシナリオはパウエル議長自ら否定しているが、シカゴ連銀のエバンス総裁は「来年3月には利上げもピークを迎え、その後、利上げ停止、そして利下げ」を一つのシナリオとして語っている。
カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁も壇上対談で、FRBが利上げしすぎるリスクについて聞かれたとき、うなずきつつ、「金融政策効果にはタイムラグがあるので、そのようなリスクも我々は認識している」と述べていた。
筆者も、11月FOMCを含め4回連続0.75%利上げを仮に実行するとなれば、その劇薬の効果点検のため、利上げ1回休み(pauseボタンを押す)はあり得ると考える。その際の外為市場の反応としては、瞬間風速で130円後半までの円反騰が見込まれる。
ただしFRB内には昨年、一旦インフレ指標が落ち着く兆候が出て、インフレを一過性と誤信した苦い体験がトラウマとして残っている。今回の連続大幅利上げに関しては、「高く、長く」が合言葉のごとく語られている。4%以上が半年から10カ月は続くと解釈されている。従って、利上げがスローダウンあるいは停止されるケースでも、政策金利水準は4%台にとどまり、円相場も140円台に収れんすると見るべきであろう。
以上は、日銀が動かずとの前提に立つ議論だ。
円売り仕掛け人たちに、次期日銀総裁候補としてA氏などの名前が挙がっていると持ち掛けると、誰がなっても、日銀は永遠のハトでタカに変身はできないとの答えが返ってくる。
ここまでは外為市場の話題だが、株式市場の見地から、聞き捨てならないこともある。政策金利は「実質政策金利」がプラス圏である水準に設定せよ、との議論だ。ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁の持論で、同氏は、プラス0.5%程度が目安と述べている。「スーパー・タカ派」メスター氏も同意見だ。常にインフレ率を0.5%程度上回る水準に名目政策金利を設定すれば、インフレ抑制効果は強まる。ただし、プラスの実質金利は株式などリスク資産には逆風なので、要経過観察である。
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